- 0322dancingskykyc
- 6月26日
- 読了時間: 5分

Vol.02
自由という余白を、海の上にひらく
野口 千士朗 (取締役 兼 サービス統括責任者)
船の上は、風が通り抜ける“個室”だと、彼は言う。誰かに決められた過ごし方ではなく、自分のリズムで、静かに、思い思いに過ごすことができる。そんな“自由な時間”を海にひらこうとしている。
潮のにおいと笑い声が交わる場所で、彼の“海とひと”にかける思いを聞いた。
── 海と暮らすような日々
「普段は、どのような1日を過ごしているんですか?」 そんな問いから、話は始まりました。
天気や海の状況をこまめに確認し、ゲストを案内したり、船を掃除したり。ときには、漁の体験を手伝うこともあります。ほとんどを、海のそばで過ごしていますね。
海とともに動く日々の中には、彼なりのリズムが流れていて、話を聞いていると、ゆったりとした空気と、海の持つ厳しさの両方が伝わってきました。
まるで彼は、海と暮らしているようでした。

──ハワイでの原体験を通して
どうして海が好きなの?と聞かれることがよくあります。
自分でも考えてみましたが、正直、はっきりとした理由はわかりません。
でも、今の自分の原点のようなものをたどると、幼い頃に訪れたハワイの風景にたどり着きます。
はっきりとは覚えていないけれど、あの場所で過ごした時間が、自分の中に“海とともにいる心地よさ”として刻まれたような気がします。
ハワイでは、海の上で地元の人たちにわいわいと出迎えてもらい、クルージングをした体験がありました。波に揺られながら、笑い声と風に包まれていた、あの自由で特別な時間。いまでもふと思い出しては、胸がふわっとするような、そんな感覚が残っています。
帰国後に、「波」をテーマにした物語を自分で書いた記憶もあります。子どもながらに、海という存在に惹かれ、それを誰かと分かち合いたいという思いがあったのかもしれません。
いま、自分が船の上で誰かを迎え入れる側になっていること。それは、あの頃感じたワクワクを、今は届ける側として引き継いでいるということなのだと思います。
はっきりした答えは出なくても、あの海の時間が、確かに今の僕を形づくっている気がしています。
── 船の上は、“個室”のような場所
「癒されたとか、救われたっていうのとは少し違っていて。 でも、船の上って、なんだか特別なんです」
彼にとって、海は“遊び場”であり“仕事場”でもある。中でも、ゲストを迎える時間には、他とは違う感覚があるという。
「完全に“個室”だなって思うんです。しかも、風が抜けるような」
こんなふうに開放感とプライベートが共存している空間は、きっと船の上にしかないんじゃないかと思っています。

── 過ごし方を“決めすぎない”という選択
しゃべってもいいし、黙っていてもいい。決まった過ごし方はいらない。
「自由って、むずかしいけど、一番楽しいと思ってます」
だからこそ、来てくれた人にも“どう過ごすか”を決めすぎたくない。
それが彼のスタイルであり、その静かな佇まいは、クルーたちにも自然と伝わっていく。そうして、訪れてくれたゲストらしい空気がゆっくりと生まれていく。
何かを教えることよりも、「このあたりに来るのは初めてですか?」そんな一言のほうが、そのひと自身をひらく気がする。
観光を ” 見ること ” ではなく、 ” 誰かに会いに行くこと ” と捉えるなら、過ごし方を決めすぎずに、余白を残しておくことが大切なのかもしれない。
── 体験は、来る前から始まっている
千士朗さんが大切にしているのは、船の上の時間だけではない。
「体験って、現地に来る前に、もう始まっていると思うんです」
予約後に、電話でゲストとコミュニケーションをとることも多いです。
もちろん予約のスムーズさはビジネスにおいてとっても大事な観点だと理解した上で、温度感のあるやり取りをすることもそれと同等に大事だと考えています。
どんなことをしてみたいか、どう過ごしたいか。そんな会話を通して、少しずつその人らしい過ごし方が見えてくる。事前に交わす何気ないやりとりが、安心感や期待感につながって、その温度感が当日の自由さや楽しさにつながっていく。
「だからこそ、コミュニケーションをとても大切にしていて。 安全に来てもらえたら、あとはもう、海が楽しくしてくれると思っています」

── 海で生きる人たちへの敬意
港にいると、漁師さんやオーナーさん、整備の人たちと自然と顔を合わせる。そこで働く人たちの姿を見て、千士朗さんは感じる。
「なんか、やっぱりかっこいいんですよね」
守らないといけない!みたいな話ではなくて、この場所で当たり前のように続いてきた仕事が、かたちを変えても続いていくといいなと思う。
それが結果的に、文化とか風景として残っていくなら、なおさらうれしい。
── はじめましての海が、“またね”の海になる
港には、漁師さん、オーナーさん、観光客、家族連れ。
いろんな人がいて、それぞれに海との関わり方がある。
でも、そこに少しずつ“顔見知り”が増えていけば、きっと「また行きたいね」と思える海になっていく。
船に乗る理由も、みんなそれぞれです。
非日常を味わいたいひと、何もせずにぼーっとしたいひと、ただ風に吹かれたいひと。
どんなひとでも、その時間が“自分のもの”になるように、できるだけ自由に過ごしてほしいと思っています。
あなたの“海の時間”が、よいひとときになりますように。
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