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Vol.01

海が教えてくれること

三宅 剛平 (代表取締役)


PocketPortの代表であり、自らも船に魅せられた三宅剛平さんは、新しい海との関わり方をつくろうとしている。潮風と会話が交わる場所で、彼の“海とひと”にかける思いを聞いた。



──PocketPortのはじまり


「海の家とかやれたらいいね」

そんなふうに千士郎に声をかけたのが、最初のきっかけでした。


彼が船舶免許を取りに行ったとき、まだ僕の中では“海で何かできたらいいな”くらいの、ぼんやりとしたイメージしかなかったんです。


僕はそのとき横浜の大学に通っていましたが、「放置されている船があるよ、掃除してみたら?」と教習所の方に言われて、思わず沖縄まで飛んでいきました。

そこで初めて、こういう現実があるのかと気づかされたんです。


日本って360度海に囲まれているのに、これだけ眠っている船があるなんて、もったいない。

そこから、少しずつ視点が変わっていきました。



──最初に出会ったのは、眠っていた一隻の船でした


誰にも触れられないまま時間だけが積もっていました。


僕らは掃除道具を持って現地に行き、ただ手を動かしました。

たったそれだけのことなのに、不思議と満たされた気持ちになって。


海って、こんなふうに静かに向き合える場所なんだな、と感じたんです。


そのあと、神奈川のマリーナに片っ端から連絡を取りました。


鶴見、平塚、佐島……「学生なんですが、マリーナや海に関して勉強させてください」って。

ほとんどは断られましたけど、ひとつのマリーナだけが「うちでやってみれば?」と言ってくれた。

その言葉を聞いたとき、ふと道が開けたような気がしました。



──船に出会うと、海が“自分の場所”になる気がした


最初はとにかく、オーナーさんに会いに行きました。


でも、困っている人はほとんどいなかったんです。

むしろ、長く船と付き合ってきた人たちにとっては、“放置している”という感覚すらないことも多くて。

それでも、ひとつひとつ会って話していく中で、少しずつ関係ができていきました。


ある日ふと、思ったんです。

「これって、誰かと誰かをつなぐ“場”みたいなものなんじゃないか」って。

船を持っている人と、船に乗ってみたい人。


でも、海に出ているときはもちろん、船が港に停まっているときも、オーナーさんがその場にいるとは限らない。このふたつの存在が出会う機会って、意外と少ないんです。


だからこそ、その間をつなぐことができたら、海の風景そのものが変わるかもしれない。

そう思ったとき、ようやくPocketPortという形が、すこし見えてきた気がしました。



──“サービス”というより、時間のきっかけを渡している感覚です


最初のころは、「どうやったら船に乗れるのか」って、そもそもの仕組みがわからない人が多かった。

僕ら自身もそうでした。だからこそ、ハードルをできるだけ下げたかったんです。


免許もいらない、特別な知識もいらない。ただ、“行ってみようかな”と思ったその一歩を受け止める仕組みをつくりたかった。


だから、僕らがやっていることは“クルージング体験”というよりも、

「海のほうに、ちょっと視点を向けてもらう時間をつくること」に近いかもしれません。

天気がいい日も、曇っている日も、海に出れば毎回ちがう景色がある。


その中で誰かが何かを感じてくれたら、それで十分だと思ってるんです。



──海は、周囲を囲んでくれるだけで、すこし心が動く場所


僕にとって船で出る海の上は、いつも“受け止めてくれる存在”なんです。

晴れてるときはもちろん綺麗だけど、ちょっと落ち込んでるときでも、何も言わずにそこにある。

いまのサービスは、もちろん心が踊るような楽しい体験がたくさんあります。

でも、「これで遊んでください!」と決めすぎることはしません。

どんなふうに過ごすかは、来てくれた方とオーナーの自由

それぞれの海の時間を、思い思いに楽しんでもらえたらと思っています。


静かに佇んで、波の音を聞いているだけでも、海は充分価値があると思うんです。

サービスを通して、海で誰かと出会ったり、港の人と話したり、

そうやって「海に知り合いが増えていく」と、だんだんと愛着が湧いてくる。

「あの船、あのオーナーさんのだな」「この港、漁師体験した場所だな」って。

それが、自分ごとの“海”になっていく入り口だと思っています。



──港の景色を、もう一度ひらいていきたい


最近よく思うのは、港を使う人がどんどん減っているということです。

漁師さんも船も少なくなってきていて、港が“動いている場所”じゃなくなりつつある。


港から人が減り、放置された船が増えていくと、景観が損なわれるだけじゃなく、災害時に流されてしまったり、海の安全保障や環境にも影響が出てきます。


いざというときに港が機能しないと、困るのはきっと僕たち自身なんですよね。

でも、だからこそ、今のうちに少しでも次のつながり方を探しておきたいと思ってるんです。

たとえ昔とは違う形になったとしても、今の海を知る人たちの知恵や感覚が、なにかのかたちでつながっていけばいいなって。


湘南の街には、ヨットの絵が描かれたTシャツや看板がたくさんあるけれど、

実際にヨットに乗ったことがある人って、意外と少ないと思うんです。

海はすぐそこにあるのに、実はまだ“知らないままの場所”なのかもしれない。


浜辺までは来ている。あと、もう一歩。

その“一歩”をつなげるのが、僕らの役割なんじゃないかと思っています。



──“だれかの海”が、“みんなの海”になっていく未来へ


車も、家も、少しずつ“所有”から“シェア”の時代に変わってきています。


きっと船も、同じだと思うんです。

たとえば、全国の海に知り合いのオーナーや楽しむ仲間が見つけられて

誰かの時間をひらく使い方ができるとしたら、それはすごく自然なことなんじゃないかと。


海に関することで困ったときに頼れる人がいる、

誰かと一緒に乗りたいと思ったときに、そっと背中を押してくれる場所がある——

そんなふうに、“港のコンシェルジュ”のような存在になっていけたら嬉しいです。


ここまでちょっと真面目に語ってきましたが、なによりも、みなさんがPocketPortを通して素敵な時間を過ごせることを、これからも願っています。


波の音、風の匂い、ちょっと非日常な景色。

いつかどこかで、そんな“海のひととき”に出会ってもらえたらうれしいです。



 
 
 

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